脱毛を伴う抗がん剤治療中、脱毛は頭髪だけではなく、眉毛やまつ毛にも及びます。
メイクの仕事をしている人であれば、顔の印象に対して眉の与えるインパクトの大きさをよくご存知かと思います。
眉は顔の額縁とも言われていて、表情をつかさどるパーツです。
大変な治療に加えて、外見の大きな変化に不安を抱くかた、辛く悲しい思いをされるかたも少なくありません。
脱毛を伴う抗がん剤治療/40代女性のエピソード
40代のAさんは、脱毛を伴う抗がん剤治療が決まり、病院で「眉の位置が分からなくなるから写真を撮っておいた方がいいよ」とアドバイスを受けました。
眉頭から眉尻まで、しっかりフサフサとした眉毛が生え揃っている Aさんは、これまで一度も眉を描いたことがありませんでした。
アドバイス通り、写真を何枚も撮って抗がん剤治療に挑まれたAさん。
頭髪の脱毛がはじまり、しばらくして眉毛の一部分が抜けて、まばらになった時、分かっていたことだけれど、とてもショックだったそうです。
頭髪に加えて、眉がまばらになることで、顔の印象が一気に変わり、自分が自分じゃなくなったように感じたと、当時のことを話して聞かせてくださいました。
Aさんは写真を見ながら眉を描いてみましたが、どうも上手く描けません。
濃くなったり薄くなったりするだけではなく、眉をどこに描けば良いのか…眉を描く位置が分からなくて四苦八苦。
何度もチャレンジしたけれど、思うように描けなくて、半ば諦めた状態で眉のテンプレートをつくるワークショップに参加されました。
「これがあれば明日からなんとかなりそうです」大事そうに眉のテンプレートを持ち帰るAさん。
1年後、ikus.医療美容ケア研究会主催のがんサポートで、Aさんに再会したとき、 Aさんはこうおっしゃいました。
「あの時つくった眉のテンプレートは、眉が生え揃うまでのあいだ、わたしのお守りになりました。
眉のテンプレートを使って眉を描いて出掛けた日は、人の目が怖くなくて、本当に助かりました。」
Aさんの言葉に思わず涙目に…。
眉のテンプレートは、眉を描くことが苦手なかたや、初めて眉を描くことになったかたにとって、とても心強いサポートツールであるということを確信しました。
このコラムでは、脱毛を伴う抗がん剤治療中、ご自分の眉を再現するサポートアイテム
「自分だけの眉のテンプレートの作り方」を公開いたします。
私たちは、全国で必要とされるかたに情報が届くことを願っています。
特別なものは一つも使っていません。
身の回りにある物で作ることができますので、どんどん真似して必要とされる方にお渡しください。
眉テンプレート誕生の背景
今から遡ること8年前。
化学療法中のかたにメーキャップセミナーをしてほしい、というお話しを頂いた事がきっかけでした。
がん経験者でも無い私がお役に立てるだろうか…自問自答しましたが、これまでのメイクの経験と知識がどなたかの役に立つならと、メイクを教える道を選びました。
まずは、眉毛が一本もない状態を再現して、自分の顔で色々な化粧品や化粧の方法を試してみようと、両方の眉毛をカミソリで剃った翌朝のこと。
出掛けるため、いつものように化粧をし始めたものの、眉メイクに悪戦苦闘。
仕上がった眉はのっぺりとしていて、まるで海苔を貼り付けたような下手くそな眉。
眉毛が一本もない状態の顔に、眉を描くことがこんなに難しいなんて…
いつもなら1〜2分で完成する眉メイクが、気づくと15分もの時間が掛かってしまいました。
わたしは美容のプロなのに…愕然としました。
同時に、これまで出会った多くのお客様のお声を思い出しました。
「眉が一番難しい」
そして抗がん剤治療の副作用で眉毛が抜けはじめ、減っていくとき、抜けてしまったときの大変さを想像しました。
眉メイクが苦手な人の補助的なツールにいいかも知れない…市販の眉テンプレート(眉ステンシル)を買って試すことにしました。
眉テンプレート完成までの道のり
市販の眉テンプレートを使って眉を描くのは初めての経験でしたが、時間の無い朝や急な来客時など、急いでいる時の眉メイクにとても便利でした。
けれど市販の眉テンプレートは、私の顔には長すぎたり形が微妙だったり。
取り寄せて試したりもしましたが、自分にぴったり合う眉テンプレートは見つかりませんでした。
そこで、作ったらどうか?と試行錯誤が始まりました。
私に合っても他の人に合うとは限らない。
試行錯誤を繰り返す中で、頭の中はぐちゃぐちゃです。
眉の黄金比と日本人の平均の顔のデータを元に作ってみましたが、市販の眉テンプレートより少しマシになるだけ。
人それぞれの顔の長さ、横幅、骨格、理想的な眉の形、バランスや好みなど、お一人お一人にどうやって合わせていくか、考えれば考えるほど難しく煮詰まりました。
眉が無い状態の生活を続けていたある日、事情を知っている友人から「今日の眉いいね!」と言われ、その日の眉の形を取っておこうと考えました。
それが、今回ご案内する自分専用オリジナル眉テンプレートの作り方の原点となりました。
まずは適した素材探しから始めました。
透明のテーブルクロスや下敷き、セロハンやサランラップなどなど、試してみる中で、おでこの丸みにきちんとフィットする素材を見つけたのです。
それは…
クリアファイルです。
クリアファイルに自分の眉を写すことで、自分の眉の形・長さ・太さを取っておくことが出来る。
大きな課題がクリアしたのも束の間、眉のテンプレートを使って眉を描こうとした時に、新たな問題がまた一つ浮上しました。
テンプレートを置く位置と角度です。
私は職業柄、骨格を意識して眉の位置を捉えたり、顔のバランスから眉のスタート位置を決めますが、メイクに慣れてない方には難しいハードルになると感じたのです。
もし眉頭の眉毛が抜けていて、全く無い状態の場合、スタート位置をどうやって決めるのか?
顔の印象が全く違ってくるため、重要な課題でした。
そこで眉が無い状態を想定し、眉を描く時の目安になる線を引きました。
目や鼻といった動かないパーツを目印にすることで、眉のテンプレートを置く目安になると考えたのです。
では作る工程を実際にご覧ください。
【自分専用】眉テンプレートの作り方
用意するのはこちらの6点。
⚪︎クリアファイル
⚪︎はさみ
⚪︎カッターナイフ
⚪︎油性ペン
⚪︎定規
⚪︎いつも使用しているアイブロウ
①油性ペンでクリアファイルにガイドラインとなる線を引きます。
②目を開けて見えるように、まぶたの部分をカットします。
③クリアファイルを眉にかぶせるように押さえて固定します。
眉をいつもより濃く描いておくとスムーズに描き写しやすくなります。
油性ペンで眉の形をクリアファイルに描き写していきます。
④カッターナイフで切り込みを入れて、切り込み部分からハサミの刃先を入れ、眉の形を切り抜きます。
⑤クリアファイルの角で皮膚を傷付けないように丸く整えて完成です。
いかがでしょうか。
以上、身の回りにあるもので、自分にぴったりの眉のテンプレートが作れます。
またクリアファイルで出来ているので、除菌シートなどで拭き取り清潔に保つことができますし、繰り返し何度も使うことができます。
たくさんの方にお作りしてきましたが、眉の太さ、長さ、角度などひとそれぞれであることがわかります。
眉テンプレート/セカンドモデル
ワークショップや個人メイクレッスンで眉テンプレートを作成するなかで、抗がん剤治療による副作用で、手に痺れのあるかたがいらっしゃいました。
「空いている方の手でテンプレートを支えながら眉を描くことが難しい」という、その方のお声を反映して、進化させた眉テンプレート、セカンドモデルが加わりました。
治療中はその時々の状態や、人それぞれのお悩みに対応していくことが大切です。
養成講座を受講する皆さまには、講座内でセカンドモデルもご案内いたします。
※ファーストモデルの作り方について、分かりやすくお伝えするため、細かな工夫点や注意点については省略しております。
受講生の皆さまが、外見ケアメイクを学んだあと、実際にワークショップやメイクレッスンでご案内する際に、きちんと再現できるよう講座内でお伝えしますのでご安心ください。
医療美容メーキャップクリエイター
井出涼子
由比ちえ
※ ikus.医療美容ケア研究会は、
i(いつもの)ku(暮らしを)s(素敵にサポート)をコンセプトに、がんと闘う患者さんを美容をとおしてサポートを行う美容関係者の団体です。